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  • 指導者は全科目やるべき

    2025年6月30日

    もちろん全員がそうだとは言いませんが、受験学年の生徒を相手に、同じ科目を10年、20年と専門的に教え続けている講師には、どうしても「費用対効果」という視点が薄れてしまう側面があります。特に、受験全体で見れば受験者数が少ないマイナー科目を専門にしている先生ほど、その傾向は強くなるでしょう。生徒の立場で考えたとき、全科目を同じ熱量で仕上げることは現実的に難しいにもかかわらず、専門講師は自分の科目の重要性を過剰に強調しがちになるのです。

    実際のところ、たとえ東大レベルの入試であっても、全科目を完璧に仕上げる必要はまったくありません。むしろ合格を勝ち取るためには、各科目で満点を取るのではなく、おおよそ半分程度の得点を安定して確保できるバランス感覚が求められます。にもかかわらず、専門科目の講師はどうしても「自分の科目をもっと深く」「ここまでやるべき」といった完璧主義を生徒に押し付けがちです。

    だからこそ、受験指導をする立場にある人は、自分が担当する科目だけに閉じこもるのではなく、実際に3科目や4科目を自分でも学習してみることが大切だと思います。自分で複数科目を進めてみることで、「どの科目にどれだけ時間をかけるべきか」「どこまで深掘りするのが現実的か」といった、全体最適の視点を持つことができるようになります。そうした経験があるかどうかで、生徒に対するアドバイスの現実味や説得力は大きく変わるはずです。

    特に重要なのは、文系と理系の壁をまたいで勉強する経験を持つことです。例えば、古文の読解と物理の問題演習を、同じ時期にある程度のレベルで並行して進めてみる。これを実際にやることで、初めて「生徒はこの両立にどれほど苦労するか」「時間配分や切り替えにどれほどの負担があるか」を身をもって理解できます。そうした負担感を実感することで、生徒に「効率的に取捨選択する力」をどう育てさせるかという、本質的な指導ができるようになるでしょう。

    結局のところ、受験指導は一科目を深く教えるだけでは不十分です。むしろ、生徒が限られた時間やエネルギーの中で全体をどうマネジメントするかを一緒に考えられる講師こそが、本当に役立つ指導者だと言えるのではないでしょうか。